ステレオグラムの基礎知識

視差の基本

人間が物までの距離を把握する仕組みには、目のピントあわせと、右目左目の位置の違いから来る視差との、2つの仕組みがあります。片目の人は距離感が把握できないと一般に言われていますが、実は目のピントのあわせによって、近いものはある程度までは距離感がつかめます。しかし、目のピントを利用して距離を表現する方法は(自分は)現在知りません。立体投影は左右の目の位置の違いによる視差を利用して立体視を実現します。

人が左右の目を使って物を見るときには、どのように視差がついているでしょうか。 ずっと遠くにある雲などを見ているときは、雲までの距離に比べて左右の目の位置の差など微々たる物なので、右目と左目では同じように見えます。 しかし、目の前を飛んでいる蝶に対しては、右目と左目の位置は大きく異なっているため、右目で見た蝶と左目で見た蝶は大きくずれて見えます。

左目 右目


この、左右の目に写る映像のずれを利用して、私たちの脳は距離感をつかんでいます。

off-axis法

視差のついた2つの映像をそのまま写したのでは、ただのぶれた映像になってしまいます。何らかの方法で2つの映像をそれぞれ左目だけ、右目だけに届くようにすれば、立体投影になるわけです。それを実現するためのもっとも簡単な方法が赤青セロファンを使ったアナグリフ方式になります。現実的なところでは、予算に応じて偏光フィルターや機械式シャッター、分光フィルターなどを用いることになります。

これをCGでも再現するために、カメラの位置を少し左右にずらして2種類の映像を作れば、立体投影用の素材になります。このように、カメラの位置を左右に平行にずらす方法は off-axis 法と呼ばれます。

off-axis 法で作った映像をそのまま調整済みのスクリーンに映してしまいますと、右目と左目で同じ位置にある雲(遠くのもの)がスクリーン上に重なって写ります。
それはつまり、見る人にはちょうど雲がスクリーン上にあるのと同じことになります。 そのため、遠くにあるはずのものが、スクリーンまでの距離に縮まってしまって、すべてのものがそれより手前にある、ということになります。


通常は、それを打ち消すために、できた映像をそれぞれ少し左右に動かして、ちょうどよい視差を作ります。たとえば鹿(?)が左右の映像で同じ位置にいるようになっていれば、鹿(?)がスクリーンの距離にいることになります。

左目 右目


但し、これはやり過ぎないようにする必要があります。もし目の前にいる蝶をスクリーン上に置こう。などとしてしまうと、画面全体を大きく動かす必要があるので、遠くの雲ものすごく離れることになります。そうすると右目で右を、左目で左を見る、より目の反対向きに目を動かさなければ像を結ばない映像になってしまいます。(観客がカメレオンであれば大丈夫かもしれません!)。
遠くにあるもの(雲)がスクリーン上で目の幅と同じぐらいだけずれていれば、両目ともまっすぐ前を見たときにちょうど雲が重なって見えることになるので、これが正しいずらし方になります。

toe-in法


どうせ近くのものを見るときはより目にするのだから、元からカメラをより目にしてCGを作ればいいじゃないか、という方法があり、toe-in 法と呼ばれます。toeというのは、つま先のことなので、toe-in法は直訳すれば内股法という意味ですね。

元からカメラ対がスクリーン上にいる鹿(?)の方向にむけて内向きを向いていれば、鹿(?)よりも遠くにある雲はその分ずれて写ります。それをスクリーンに投影してやれば、最初からちょうどいい視差が作れるではないかという方法です。

左目 右目


しかし、toe-in法にはカメラが斜めになるという欠点があって、通常はあまり採用するべきでは無いと言われています。その訳を理解するには、以下のような格子模様を立体投影してみた例が分かりやすいと思います。

toe-in 法で少し内向きにカメラを向けると、左カメラと右カメラで角度が変わるので、下のように写した画像のパースが少し変わります。



そのため toe-in 法で作った画像を投影すると、画面端では上下方向のずれが発生します。

これは比較のために off-axis で作った画像ですが、上下のずれは発生せずに、画面全体で平行に視差がついています。

このため、通常は off-axis 法を使うべきだと言われていますが、よほど視差を強くしない限り、Toe-In法でも実質的にはほとんど実用上の問題は生じません。(そして、それが問題になるほど視差が強い場合は、見易さの点で問題があるので、もっと弱い視差にするべきです。)