本センターの大規模計算機システムを活用している研究者の皆様をピックアップし、そのご研究内容を映像で紹介します。



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vol.17 歯科診療室内の汚染空気の滞留シミュレーション

研究者|南部 恵理子
所 属|大阪大学 歯学部附属病院 医療情報室 (口腔医療情報部)

歯科診療では歯を切削するタービンなどの器具により、患者様の唾液を含んだ飛沫が飛散する場合があります。そのため、飛沫を含んだ空気が長時間滞留しないために適切な換気が必要と思われます。本研究では、歯科診療室の個室を対象にして、ドアと窓を開放した自然換気のみの場合と、エアコンやHEPAフィルター搭載空気清浄機を併用した場合の室内空気の滞留を、空気齢という空気の評価指標を用いて数値流体力学シミュレーションにて可視化しています。通常、1件のシミュレーションを実行するのに非常に多くの時間的コストがかかります。スーパーコンピューターSQUIDを使用することで、シミュレーションの実行が短時間で可能となりました。

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vol.16 AlphaFold2を利用して、新規なタンパク質間相互作用ペアを発見する〜機能解析の新展開

研究者|河口 真一
所 属|大阪大学 大学院生命機能研究科 生殖生物学研究室

細胞内のタンパク質の種類は、約1万〜2万程度あり、多くの場合、複合体を形成することによって、生命現象の物理化学的反応を担っている。そこで、研究対象とするタンパク質と他のタンパク質との結合を実験的に探索する試みが広く行われる。最近、DeepMind社によって開発されたAlphaFold2というAIプログラムは、アミノ酸配列からタンパク質の立体構造や複合体構造を予測できるとして注目されている。本研究では、AlphaFold2を利用して、迅速なタンパク質複合体のスクリーニングを行い、機能解析の一助とすることを試みた。SQUID上でAlphaFold2を運用し 1日に約150ペアの複合体予測ができるように計算フローを構築した。細胞内のタンパク質について、1:1の結合を仮定して、in silicoスクリーニングを行ったところ、全体の約1%に相当する数のペアで、信頼性スコアが高いものが得られた。現在、AIプログラムが活発に開発され、革新的な技術が生命科学にも多大な影響を与えている。AlphaFold2に限らず、このようなAI技術にいち早く適応し、検証することは、実験科学と計算機科学の隔たりを埋める好機となることが期待される。

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vol.15 半導体製造での洗浄プロセスの解明

研究者|佐藤 雅伸
所 属|株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ 洗浄開発統轄部

半導体製造工程では、シリコンウェハーから汚染金属・微小粒子等を除去するために、回転するウェハーを様々な化学物質を含む液体で処理可能な枚葉式洗浄装置が使用されます。高性能で高効率な洗浄方法を追求するためには、回転するウェハー上の液体の速度・液膜厚などの状態を知ることが重要です。しかし、ウェハーは高速で回転している上に、液膜は非常に薄く、また、化学的に危険な液体の状態を実際に知ることは非常に困難です。そこで、この研究では、LES-VOF法による流体シミュレーションを使用して回転ウェハー上の液体の流れを明らかにしようと試みました。LES-VOF法は詳細で高精度の結果を得ることが出来る一方で、通常の計算能力では時間がかかりすぎることが課題でしたが、スーパーコンピューターSQUIDの計算能力を使用することにより、短期間で詳細な液体の状態を明らかにすることが出来ました。

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vol.14 致死性不整脈をもたらすトリガー活動形成メカニズムの解明

研究者|津元 国親
所 属|金沢医科大学 医学部 生理学Ⅱ 准教授

心臓は、生命の営みである血液循環を担うポンプである。この血液ポンプが正常に機能するためには、心臓の中を正確に電気が流れる必要がある。この電気の流れ(心筋細胞が興奮することによって作られる興奮波の伝播)の異常が不整脈であり、特に心室内で起きた異常は致死性となることがある。心筋細胞の興奮が持続しすぎることで、異常な興奮を引き起こし、致死性不整脈の発症をもたらすと考えられているが、発症のきっかけとなる現象がどのような仕組みで引き起こされるのかはまだよく理解できていない。本研究では、心室筋シートモデル上での興奮伝播を、サイバーメディアセンターのOCTOPUS大型計算機により多様な条件でシミュレーションを繰り返し、その致死性不整脈発症のきっかけとなる現象(トリガードアクティビティー)の発生機序を明らかにすることに成功した。この成果は、今後不整脈発症の予知や予防方法を確立する上で有用になると考えている。

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vol.13 単一分子電気伝導の第一原理計算

研究者|大戸 達彦
所 属|大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教

1つの分子が電極間に架橋された「単一分子デバイス」の開発は、電子輸送がどのように起こるかを分子・原子レベルで理解し、有用な分子デバイスの設計にとって重要な分子設計指針を引き出すことにつながると考えられている。単一分子デバイスの挙動の理解のためには、どのような分子架橋構造のとき、どの程度の電気伝導度が得られるかを理解する必要があるが、デバイスのサイズが非常に小さいため、実験的のみから1つの分子の架橋構造を特定することは困難である。本研究では第一原理計算を駆使し、複雑な構造を持つ分子の架橋構造を推定する試みを行なった。分子の両端に電極原子を配置する必要があるため計算コストが高く、サイバーメディアセンターのOCTOPUSのような大型計算機を用いる必要がある。データ科学的な手法を組み合わせることで、第一原理計算を行う構造の絞り込みを行うことに成功した。この手法は、今後様々な分子デバイスの架橋構造と電気伝導度の関係性を調べる上で有用になると考えている。

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vol.12 エンジン壁面熱損失の高精度予測に向けて ~脈動乱流における熱伝達機構の解明~

研究者|小田 豊
所 属|関西大学 システム理工学部 准教授

自動車エンジンに代表される往復動式内燃機関では燃料の燃焼によって生じる熱エネルギーのうち20~30%が冷却損失として失われます。冷却損失とはエンジン構成部品を冷やす際に壁面を通じて冷却水が受け取る熱エネルギーの割合であり,エンジン出力に寄与しないことから燃費向上のためには最小限に留める必要があります。本研究では,ピストンの往復運動によって生じるエンジン内部の複雑な熱流動を「強い加減速の繰り返しと壁面熱伝達を伴う脈動乱流」とみなし,高精度な乱流シミュレーション手法を適用することで,脈動乱流における壁面熱伝達のメカニズム解明に迫りました。このようなシミュレーションを通じて現在設計で広く利用されている計算モデルの限界を明らかにすることは,より高精度に熱損失を予測できる計算モデルの構築に資すると考えています。

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vol.11 水処理膜を透過する水やイオンの分子シミュレーション ~計算機シミュレーションによる分子機能予測~

研究者|石井 良樹
所 属|兵庫県立大学 大学院情報科学研究科 特任講師

水処理技術は、安全安心な水を確保し、持続可能な社会を実現するために、必要不可欠なものです。そのような膜を透過する分子の性質を理解するため、我々はスーパーコンピュータを用いて、ナノ材料のなかの水分子やイオンの動きを解き明かそうとしています。本研究から、量子化学計算と分子動力学計算を駆使して水分子の環境を正確に再現することで、水分子がどうしてナノ材料の中を拡散しやすいのか、が新たに分かってきました。

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vol.10 超伝導の磁場誘起chiral転移と常磁性電流 ~軌道磁化と磁場との結合が織りなす現象~

研究者|兼安 洋乃
所 属|兵庫県立大学 大学院理学研究科 物質科学専攻 助教

超伝導は電子がペアを成す状態であり、電子ペアのスピンと軌道の性質から多彩な磁化・電流現象を現します。その一つに、軌道による自発的磁化をもつchiral状態が挙げられます。何故、超伝導状態において軌道による自発磁化が生じるのか、その理由は明らかではありません。このchiral状態の本質を探るために、軌道磁化と磁場の結合によるchiral現象をGinzburg-Landau方程式の数値解析で調べています。解析から、磁場中のchiral安定化の特徴として、磁場誘起chiral転移と常磁性電流、chirality反転(軌道磁化反転)が示されます。これらの現象は距離について変化した超伝導状態で、軌道磁化と外部磁場が常磁性結合することにより生じます。このような磁場中のchiral超伝導の距離依存性を調べるために、サイバーメディアセンターのSX-Aurora TSUBASAのVector並列処理が威力を発揮します。

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vol.09 キャビテーション乱流の数値解析

研究者|岡林 希依
所 属|大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 助教

液体の流れにおいて圧力が飽和蒸気圧より低下すると、泡の発生・消滅が短時間に生じます。この現象をキャビテーションといい、ポンプや舶用プロペラなどの流体機械に様々な悪影響を及ぼします。国内では、特にロケットエンジンの液体水素ターボポンプ内の流れ解析に対する要求を契機として、キャビテーション流れの数値計算が発展してきましたが、最も基本的な翼周りの流れでさえ、揚力係数などの定量的な再現は困難です。本研究では、翼周りのキャビテーション流れの数値解析において、非常に微細な乱流渦を解像することで、揚力の再現性を向上させることができました。細かい乱流渦をとらえるような計算は大規模になりがちですが、スーパーコンピュータSX-ACEによって高速に行うことができています。

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vol.08 病気を制御する遺伝子解明のための時系列シングルセルデータ解析

研究者|加藤 有己
所 属|大阪大学 大学院医学系研究科 医学専攻 ゲノム生物学講座 助教

生体組織や器官は細胞集団から構成されていますが、それらで発現している遺伝子を細胞1つ1つ(シングルセル)に分解して調べることができるようになりました。細胞は特定の細胞型へ徐々に変化する分化という過程を経て最終的な形になります。このような時間経過で遺伝子発現がどう変化しているのかを追うことが重要です。例えば、正常なマウスと病気のマウスから取得した時系列シングルセルデータを比較し、病気を制御する遺伝子は何かといった疑問を、コンピューターを使って解明することができると考えられます。本研究では、互いに関連のある2つの実験系から得られるシングルセルデータから、分化の軌道を効率よく比較するツールを開発しました。https://github.com/ykat0/capital